スイート・ホーム オフライン

小説原案エピソード(1)

たくさんの応募者の中から入賞された坂下喜子さんと、原田マハさんの対談が宝塚ホテルで行われました。

当日はあいにく雨まじりのお天気でしたが、受賞者の坂下さんは「せっかくだから拝見させて頂こうかな?」とおっしゃるご主人さまと1歳のお嬢さまとご一緒においでになりました。

我々もお会いしたのは当日が初めてでしたが、一目見るなり「あっ、陽皆ちゃんだ」って思える、そんな感じの坂下さんでした。

はじめは緊張のあまりぎこちなかった坂下さん。でも、原田さんとの会話が進むといつしか笑い声も。ステキな笑顔いっぱいの坂下さんと原田さんのお話の様子をご紹介します。

司会:本日はお2人の初めてのお顔合わせですが、リラックスしてお話ください。

原田:入賞おめでとうございます。

坂下:どうもありがとうございます。自分が書いたものを小説にしていただけるなんて、夢みたいです。

原田:素敵なエピソードでした。私は学生時代を含めて5年ほど西宮北口に住んでいたので、阪急沿線の文化が大好きなんです。いつか、このあたりを舞台にしたラブストーリーを書きたいと思っていたんです。喜子さんのエピソードを読んだ時、胸がきゅんとしました。

坂下:ありがとうございます。できあがった小説を読んで、偶然ですが実家にも金木犀があることや、大学生の妹がいることが一致していてびっくりしました。このことは応募内容には入れてなかったんですが。

原田:すごい偶然ですね。喜子さんはずっと宝塚にお住まいですか?

坂下:出産と同時に引っ越してきました。私は四季の移り変わりが大好きなんです。私のふるさとは山も海もある田舎なのに、山が見えない。海があるのに工場のせいか空が暗いんです。宝塚に来て、季節ごとの山の美しさを知りました。緑が多いので、たとえば夏から秋に変わる時の草木の香りがダイレクトに感じられるんです。小説の中で、何気ない風景が季節感たっぷりに表現されていて、「なんて素敵な街」とあらためて思いました。いろんなシーンに季節を感じます。

原田:初めて山手台に来た時に、街なかの緑やそよぐ風が心地よくて、すごく魅力的だと思ったんです。応募作には素敵な作品がたくさんあったので、選ぶのに苦労したんですよ。その中で、喜子さんのエピソードがすごくかわいくて。自動販売機の前で飲み物が決められない、1,000円 の服を買うのに少なくとも2往復する。そんなふうになかなか決められない、ちょっと地味で引っ込み思案な女の子が、愛する人と出会って成長していくという、主人公のキャラクターが決定付けられました。私は今日、主人公の陽皆(ひな)ちゃんに会っている気分です。

坂下:ありがとうございます。

原田:梅田から30分でこんな良い環境があるなんて、東京だとなかなかないですよ。関西はいいですね。私もまた住みたくなってきました。

坂下:宝塚は都会に近くて便利だし、主人の実家もこちらなので、迷わずに住むことを決めました。主人の親戚が住んでいる山手台にも、何度も行っています。もちろん阪急オアシスも家族で利用しているので、小説で読むとなんだか嬉しいですね。バスの窓から見える風景の描写に、「私も同じことを感じてる」と思えたり、何気なく歩いていた街がこんなに素敵だったんだと再確認しました。先生の手にかかるとすごいですね。

原田:しめしめ(笑)。

《追記 司会者談・・・》

とっても和やかに始まった座談会は、対談というよりもむしろ世間話のような柔らかい印象を受けました。お2人がお会いする前から、作品を通じてお互いの心が既に触れ合っていたような・・・そんなふうに感じることができました。

そして原田マハさんもおっしゃっていたことですが、私もお話を横で聞かせて頂く中で、坂下さんが主人公の陽皆ちゃんのように見えることがチラホラ。街の魅力や四季の鮮やかさについてお2人が語られていたときは、あたたかな陽光や緑の香り、心地よい風が吹く風景を手に取るようにイメージすることができました。

これも、小説の持つチカラ!?

小説本文と座談会とをご覧になって頂くことで、陽だまりのような優しい温度を感じ取って頂ければと思います。

以上、「スイート・ホーム」座談会の前半をご紹介させていただきました。

原田さんと坂下さんのお話は後半に続きます。

前回に引き続き、受賞者の坂下さんと原田マハさんの座談会の続きをご紹介させていただきます。

全3話分の公開も無事終わり、小説に登場する香田一家のモチーフとなったお店のことに触れられたり、小説を執筆していく上でのウラ話だったり、中々聞くことのできないお話も聞くことが出来ました。どうぞ最後までお楽しみください♪

実在する洋菓子店がイメージなんですね(坂下)

坂下:洋菓子店「スイート・ホーム」のイメージは、五月台にある「五月台四丁目」さんですか?小説と偶然が重なるんですが、「五月台四丁目」さんのお菓子は、主人が私の両親に結婚の挨拶に来た時に持ってきたものなんです。

原田:宝塚ホテルのパティシエだった方ですよね。私も以前連れていってもらったことがあるんですが、帰る時、私が歩いていく姿を、外に出てずっとお辞儀で見送ってくださったんです。すごいなと思いましたね。

坂下:私も大好きな店です。

主人公の2人が結ばれて良かった(坂下)

司会:ほかに好きなシーンを教えてください。

坂下:恋の始まりのところが好きです。ハッピーエンドで終わる物語なのもいいですね。

原田:彼はきっとすごくモテる素敵な人。最初から陽皆のことが好きだったんでしょうね。

坂下:2人が結ばれて本当によかった。先生にこうして直接、小説の感想をお伝えすることができるなんて、夢のようです。実は、主人に言わずに応募したので、受賞したと伝えた時は、正直はずかしがっていました。

原田:いつか山手台に家を買おう、というラストシーンの赤い屋根は、別のかたのエピソードです。「ここで子どもを育てようと決めた」というラストシーンに行き着くように、物語を作っていったんです。印象に残った皆さまのエピソードをさりげなく入れるのは、案外大変だったんですよ(笑)。でも感想をもらって報われました。小説家は、読んでもらって、感想をもらうのがゴールなんです。良くても悪くても嬉しい。本当に書いてよかったと思います。

坂下:私も書いてもらえて嬉しいです。

原田:本はよく読まれますか?

坂下:まだ子どもが1歳3ヵ月なので、時間がとれなくて・・・(笑)。でも好きです。

原田:ぜひ私の小説も読んでくださいね(笑)。私が書いた本をプレゼントします。短いストーリーなので、お子さんがお昼寝している間にでも読めますよ。挿絵もきれいなので、子育てに疲れた時、気分転換してください。

最後に著者 原田マハさんより

まさに陽皆出現!坂下喜子さんに会えて嬉しかったです。読んだ感想を直に伺いたくて、とっても楽しみにしていました。いい機会をくださってありがとうございました。これからもずっと宝塚に住み続けてほしいですね。

誰にも、家族や家にまつわる忘れられない思い出がある。そしてそれはかけがえのないものであることを、今回、多くのエピソードをお寄せいただいて実感しました。

今回の執筆は、いくつかのエピソードをもとに物語の屋台骨を作り上げていくという、初めての試みでしたが、私自身、エピソードに共感し、感動しながら書き上げることができました。

複数のエピソードから、主人公のキャラクター、物語の舞台背景となる部分、心に残ったワンフレーズなどを抽出し、注意深く物語の中に織り込んでいます。

これは、なかなか骨の折れる作業でしたが、不自然な継ぎ目が見えてしまってはいけないので、ごく自然に物語にとけ込むように手を加えました。

結果的にはスムーズな物語を作り上げることができて、満足しています。

多くの方々と、この物語を通して、ひとりひとりが持っているかけがえのない思い出を共有できればうれしいです。

(対談を終えて)

《追記 司会者談・・・》

小説と現実の世界が繋がっている・・・現実の坂下さんを目の前にしたとき、小説の主人公である陽皆と重なり合ってすごく不思議な気持ちになりました。原田さんも、そして、原田さんとのお話が進むにつれて坂下さんも、きっと同じ感覚だったと思います。また、坂下さんに特別な思い出があるという「五月台4丁目」さんのケーキが小説の中で重要な役割を果たしていたことは、まさに奇跡とも言えるひとコマでした(坂下さんにとって五月台四丁目さんのケーキが思い出の品であったことは、原田さんは、今日まで全くご存知ありませんでした)。

「普通の人が、普通に恋し、幸せに暮らしていく」ということ、それには決して特別な出来事が必要なのではなく、今回の「スイート・ホーム」のように、何気ない人と人との出会いと繋がりこそが大切なのかもしれませんね。ちょうど陽皆が幸せな道を歩んでいくように・・・

緑豊かな家の庭先。「ここで家族とともに歩んでゆきたい」と思えるような環境。それらが優しく、ふんわりと流れ込んでくるというストーリーを、坂下さんと原田さんが共同作業で生み出した・・・そんな気がします。

改めて、坂下喜子さん、原田マハさん、この度は、ほんとうにありがとうございました。また、坂下さん、今回の受賞の副賞としての、思い出の宝塚ホテルでのご宿泊はいかがだったでしょうか?新しいストーリーの芽は生まれましたか?

またいつかどこかでお目にかかったとき、そっと教えてください、物語の第二章を。そして、その舞台となるこの街のあたたかさを。